こんにちは! ネジです!
今回は実際の処方を例に「薬剤師がどのようなことを考えて仕事をしているかを感じてもらえたら・・・」という内容です。
“医師の処方が適切かを確かめること”が薬剤師の重要な役割の1つであり、その業務を”疑義照会”と呼びます。
今回は”疑義照会”について説明していきたいと思います。
Contents
まず、”疑義照会”について
今回のテーマは処方内容を見て薬剤師が考えていることを知っていただくというものですが、その際に知っておいていただきたい言葉として”疑義照会”というものがあります。
“疑義照会”は患者さんが持参した処方箋の中に疑わしい点があれば処方した医師に照会(問い合わせ)を行うことであり、医療従事者の中で薬剤師のみが持っている権利であり義務です。
というのも「薬剤師は処方箋中に疑わしい点があった際には処方医に確認した後でなければ調剤(薬の準備)をしてはいけない」と薬剤師法に明記されています。
“疑わしい点”というのは「薬を飲むことで患者に不利益が生じる可能性がある場合」や「患者の訴えと薬の内容に相違がある場合」などのことを指します。
医師も人間ですので、忙しい中で間違うこともありますし、必要な情報を知らなかったこと(患者さんから聞き取りできていない等)により飲まないほうが良い、もしくは飲んではいけない薬を処方する場合があります。
そのような処方を見逃さないようにチェックし、必要があれば疑義照会を行うことが薬剤師の重要な業務の1つです。
疑義照会の割合
少し前の調査になりますが、平成27年度全国薬局疑義照会調査報告書という日本薬剤師会と東京理科大学薬学部が協力して行った報告を参考に疑義照会が実際にどの程度行われているかを見ていきたいと思います。
上記の調査報告書をまとめると以下のようになります。
・調査はWebによる質問入力方式で行われた
・調査依頼をした5,575件の薬局のうち、818件の薬局が回答(14.7%)
・調査に参加した薬局の1か月に受け付ける処方箋は平均1425.8枚
・全体の処方箋受付枚数は297,086枚で、そのうち7,607枚の処方箋で疑義照会が行われた(2.56%)
・疑義照会が行われたもののうち、形式的な疑義照会が21.9%、薬学的な疑義照会が78.1%を占めた
・薬学的疑義での処方変更率は74.88%だった。
・また、疑義照会が1件もなかった薬局が62薬局あった
まず、補足としてですが、上記の中で”形式的な疑義照会”というのは、処方箋に記載されているべきである患者さんの保険証番号が記載されていない場合や次回の受診予約日と処方日数がずれているため変更が必要な場合、「食前に服用すること」と決まっている薬が「食後」で処方されている場合などのことです。
一方で”薬学的な疑義照会”は薬の副作用が疑われる場合、年齢や症状等から薬の量の変更や薬そのものの変更が望ましいと薬剤師が判断した場合のことです。
この調査の結果からは医師が発行する処方箋のうち2.56%になんらかの疑義照会が行われており、そのうち薬学的な疑義照会が78.1%とのことから、処方箋全体の約2%は何かしらの薬学的な問題を抱えている可能性があるとも言えます。
つまり、割合的に考えると薬局に50人の人が薬局に来たら、そのうちの1人は薬の変更を検討する必要があるとも言えます。
調査について少し考えてみると・・・
ただ、この調査は任意のアンケート方式であるため、以下のような問題があります。
- アンケートに回答した薬局の積極性
- 回答した薬局で働いている薬剤師の能力
- 受付した処方箋発行元医療機関の診療科の偏り など
アンケート方式(特に任意回答)の場合、以前に記事にした統計の内容で言う”バイアス”がかかりやすいとも言えます。
ボランティアで行うアンケートに回答する薬局はそもそも積極的に疑義照会を行っているかもしれません。(有償であればそれはそれでまた偏りが出るかもしれません)
また、働いている薬剤師の能力が高ければ疑義照会すべき内容を見つける件数は増えますし、逆であれば減ります。
報告書の中にもありますが、診療科の偏りがあるために疑義照会の件数が増えてるかもしれません。(内科は多く、皮膚科や眼科は少ない)
上記のような因子を排除できないため、この調査は全ての薬局の状況を表しているわけではなく、あくまで参考ということでご理解ください。
実際の症例から疑義照会を考える
ここからは私が今までの業務の中で体験した処方を例に考えていきたいと思います。
体験した処方と書きましたが、実在の患者さんの処方をそのまま持ってきたわけではなく、年齢や処方内容は変更を加えて仮想のものとしていますのでその点はご了承いただければと思います。
症例1 小児患者の抗生物質
7歳 女性 体重20kg
風邪に対して、痰や鼻水を出しやすくするカルボシステインと咳止めのアスベリン、そして抗生物質のミノサイクリンが処方されている患者さんです。
小児の風邪に対する処方ですね。
まず、このような処方が来ると薬剤師は患者の体重に対して薬の量が適切かを考えます。
以下は各薬剤の添付文書からの抜粋です。
(ムコダイン®はカルボシステイン、アスベリン®はチぺピジン、ミノマイシン®はミノサイクリンという成分名です)
ムコダイン®は1回服用量が体重1kg当たり0.02gなので20kgの場合は0.4gになります。これが1日3回のため、1.2gのため、問題ありません。
アスベリン®は7歳で明確に記載はされていませんが、概ね問題ない範囲であると考えられます。
ムコダイン®と同様にミノマイシン®についても考えてみるとそれぞれの薬の量は問題ないことが分かります。小児科が専門の医師でも稀に薬の量を間違えている場合があるため、このあたりの確認はしっかりとすることが重要です。
他の点として、患者の年齢をよく見ると1つ気になる点があります。それはミノサイクリンの使用です。
ミノマイシン®の添付文書には以下の記載があります。
これは”歯牙黄染”という副作用で、薬の成分が歯や骨の成長する段階で取り込まれることで着色してしまうものです。特に歯については生えている歯に色がつくのではなく、歯茎の中で歯が形成される段階のものに色がついてしまいます。(使用量や回数が増えるほど、着色が強くなります)
骨は常に「壊して作り直す」ということが行われているため、色がついた部分がそのまま残るということはありませんが、歯はそのようなことがないために着色した後に自然と色が消えるということはありません。
そのため、「どうしても他の薬の使用ができない肺炎の場合に使用を検討しましょう」という決まりになっています。
このようなことを考えた上で、疑義照会するべきかと検討します。
そもそもただの風邪であれば抗生物質の投与は基本的に必要がないこと、そして、肺炎だったとしても他の抗生物質がアレルギー等で使用できないか、使用しても無効だった場合以外はミノマイシン®を積極的に使用する理由がありません。
そのため、ミノマイシン®の使用目的について医師に疑義照会をします。
疑義照会後の処方内容の変更率は約75%と先ほども紹介しましたが、最終的な処方内容の決定権は医師にあります。
変更やミノマイシン®が処方削除となれば薬剤師の懸念はなくなりますが、肺炎の治療で経過が良くないなどの理由で医師から「変更不要」という返事になれば”歯牙黄染”のリスクはあるものの、ミノマイシン®をそのまま調剤することになります。
症例2 高齢者に処方された胃薬
80歳 男性
糖尿病治療薬としてジャヌビア®が、高血圧治療薬としてアムロジピンが処方されていた患者さんに胃酸を抑える薬としてファモチジンが追加となりました。
それぞれの使用法を添付文書で見てみると以下のように記載されています。
(ジャヌビア®の成分名がシタグリプチン)
薬の使い方としては薬の量も飲み方も問題ないように思えます。
この症例で薬剤師として気になる点は80歳という高齢と糖尿病・高血圧を持病として持っている点です。
このような患者の場合は腎臓の機能がどの程度あるかを考える必要があります。
腎臓の機能が落ちていると薬の排泄が遅くなるため、薬の効果が強く出てしまいます。
特にファモチジンは体に吸収された薬剤の半分以上(57.8%~96.4%)が腎臓から排泄されるため、腎臓の機能が落ちることで受ける影響はとても大きい薬剤であり、腎機能に合わせた服用量の調節が必要です。
- クレアチニンクリアランスは腎機能の指標で数値が低いほど、腎機能も低いと評価する
薬は多く飲むことは費用面での無駄があることはもちろんですが、患者さんの体にも余計な負担をかけてしまいます。
ファモチジンの過量服用は無顆粒球症(免疫機能の低下)や貧血等の血液障害の他、せん妄や錯乱などの精神症状が出ることで認知症と勘違いされるということがあります。
添付文書の基本的な使用法は身体機能の低下が少ない成人を対象とした量となっているため、加齢や持病により肝臓や腎臓等の機能が低下している患者の場合には特に注意が必要となります。
この症例では病院で腎機能の検査をしているかを確認し、しているようであればクレアチニンクリアランスの数値に合わせた量であるかを検討し、用量の調節をします。
高齢者の身体機能の変化は病歴や生活習慣等で一律ではないため、同じ年齢でも問題ない人と問題となる人が混在しています。そのため、検査値を薬局に持参していただける患者さんについてその都度、数値を見て用量を確認しています。
症例3 止血剤が処方された患者
53歳 女性
止血剤であるカルバゾクロムとトラネキサム酸が患者さんに処方されました。
それぞれの効能・効果を添付文書で見てみましょう。
(カルバゾクロム【上】(アドナ®)とトラネキサム酸【下】(トランサミン®)の添付文書から抜粋)
止血剤が処方されたということはどこかから出血が続いてるために受診したはずです。
そのため、このような処方箋が来ると薬剤師は鼻出血やケガによる出血の他、女性のため不正出血の可能性も考え、プライバシーに配慮しながら聞き取りを行わないといけないななどと考えます。
しかし、聞き取りを行うと患者さんは「出血は起こっていない」と言います。
トラネキサム酸は止血以外に喉の痛み等にも使用されますが、カルバゾクロムは止血以外の目的で使用されることはありません。そのため、トラネキサム酸は風邪による喉の痛みに使用されたと考えられ、カルバゾクロムは使用目的が分からない状態です。
そのため、「どのような症状で受診したか?」を改めて聞くと「風邪で受診した」とのことです。
ここで薬剤師は”似た名前の薬との処方間違い”の可能性が高いと考え、疑義照会を行います。
疑義照会の結果、”カルバゾクロム”と症例1にも出てきた”カルボシステイン”の処方間違いが発覚し、処方変更となりました。
この話を読んで「なぜ、医師はそのようなミスをしたのか?」と思う方もいるかと思います。これば処方箋を作成する際に「カル」と入力して検索し、処方する薬剤を選んだ時に「カルボシステイン」と「カルバゾクロム」を選び間違えたということです。
どちらも処方としては成り立ってしまう薬のため、患者さんは聞き取りがなければ不要な薬剤を服用することになっていた可能性もあります。
疑義照会の意味
ここまで紹介してきたように疑義照会は薬剤師がより良い薬物療法につなげるための提案や確認を行うものです。
先ほど紹介した調査では、薬剤師が適切に疑義照会を行うことが未然に副作用を防ぐことになり、大きな医療費の抑制につながっているというようなことも言われています。
薬剤師からの聞き取りを面倒に思っている方もいるかと思いますが、自分が50人に1人の可能性があると考えて聞き取りにご協力いただけると幸いです。
まとめ
では、今回のまとめです。
・薬剤師の重要な業務に”疑義照会”がある
・疑義照会では薬の種類の間違いや用量の訂正を行っている
・疑義照会の割合は薬局に来る患者の50人に1人程度
今回は薬剤師の重要な業務の一つである疑義照会についての話でした。
疑義照会の例については背景や解説を含めると長くなってしまうため、今回は3例としましたが、これからも定期的により詳しく解説していければと考えていますので興味がある方は気長にお待ち下さい。
これは余談ですが、症例1のミノマイシン®の処方については、実際に知人の勤める薬局である程度の頻度で小児患者へ処方されていたそうです。
そして、その患者さんは特に肺炎等でもなく、”風邪処方”の一環で処方されていたようです。
その処方は公立病院に勤める特定の医師から出され、知人もミノマイシン®のリスクを知っていたために疑義照会をしていたそうですが、何度問い合わせを行っても変更になることはなかったそうです。
今回、紹介したように薬剤師は医師の処方をただ調剤するだけではなく、医師の処方を確認した上で必要性を見極めて疑義照会を行っています。
もちろん、医師が全てを理解した上でそれでも必要性が高いと考えて処方している場合もあるため、薬剤師が考えたことが全て正しいわけではありません。
しかし、より良い薬物療法となることを考えての行動ですので、疑義照会を行うことで待ち時間が増えてしまっている場合もありますが、理解して頂いた上で薬局を利用してもらえると嬉しいです。
では、次回もよろしくお願いします!