こんにちは! ネジです!
今回は大学では薬物動態学の講義で学ぶ、バイオアベイラビリティについての記事です。
「バイオアベイラビリティってなに?」
「国家試験で使うだけじゃないの?」
「使い方があるなら知りたい!」
という方、特に新人薬剤師の方向けの記事です。
バイオアベイラビリティは大学で薬物動態学の計算を行う過程でよく出てきたパラメータだと思いますが、実際の現場では使っていないという方も多いのではないでしょうか?
今回は現場に出るとあまり意識しなくなってしまうことが多いバイオアベイラビリティについて解説していきたいと思います。
では、よろしくお願いします!
Contents
そもそもバイオアベイラビリティってなに?
まずはバイオアベイラビリティがどのようなものかの復習です。
専門的に言えば、薬の”吸収”と”分布”と呼ばれる部分ですが、下の記事も参考になるかと思いますのでお時間がある方はぜひ!
バイオアベイラビリティ(BioAvailability:BA)は生物学的利用能とも呼ばれます。
どのようなものかというと
「主に経口投与した薬がどれくらい血液中に入るか」
という指標で、以下の式で計算されます。
イメージとしては以下のような感じです。
薬は口から服用したうちの全てが身体に取り込まれるのではなく、服用したうちのいくらかが取り込まれ、血液中に入ることで効果を出します。
この「服用したうちのいくらか」の割合を示すのがバイオアベイラビリティです。
もし、100mgの薬を内服して血液中に70mgの成分が取り込まれていれば、バイオアベイラビリティは70%ですし、20mgしか取り込まれなければバイオアベイラビリティは20%です。
ちなみに、注射薬の場合はそのまま血液中に薬が入るためにバイオアベイラビリティは100%です。
BAは各薬剤で異なりますが、添付文書やインタビューフォームで確認することができます。
過去に一般の方向けにPMDA(医薬品医療機器総合機構)の使い方を解説していますので、添付文書やインタビューフォームの調べ方はこちらも参考に!
バイオアベイラビリティは大きい方がいい?小さい方がいい?
バイオアベイラビリティについて説明しましたが、
「バイオアベイラビリティが大きい方が効きそう!」
「小さいと効果が弱いのでは?」
というイメージになる方もいるかと思います。
しかし、実際はそうではありません。
例えば、Aという薬の経口バイオアベイラビリティが40%だったと仮定します。
この薬Aが血液中に8mg取り込まれれば十分に効果が出ると分かっている場合に何mgを薬として飲ませればよいかというのは計算で20mgと求められます。
もし、この薬Aのバイオアベイラビリティをなんらかの方法で改善して80%にできたとしても、8mgが血液中に取り込まれれば効果を出すという事実は変わらないので飲ませる量が10mgになるだけで、効果は変わりません。
なので、薬の効果の強弱はバイオアベイラビリティでは測ることができません。
では、このバイオアベイラビリティの大小でなにが変わるのかを考えていきたいと思います。
バイオアベイラビリティをしっかりと理解する
バイオアベイラビリティの大小で何が変わるのかを理解してもらうためには薬剤の吸収についてしっかりと理解する必要がありますので、まずはその説明から。
経口投与された薬は小腸から吸収されます。
その後、吸収された薬は血管(門脈)により肝臓に運ばれ代謝を受け、全身へと循環します。
この肝臓での代謝を肝初回通過効果と呼びます。
名前のとおり、服用された薬が初めて肝臓を通過する際に受ける影響のことで、肝臓を通過した後は血管を通って全身に循環して効果を発現し、また肝臓を通過する際に分解され、全身を巡り・・・というループになります。
肝臓での代謝は薬物や毒物、体内で作られるホルモンなどを分解するという肝臓の臓器としての役割であり、体内に入ってきた薬(=異物)を無効化しようとする働きです。
先程説明した通り、バイオアベイラビリティは内服した薬が全身循環血流に入る割合です。
そこには、
小腸の壁(小腸上皮細胞)を超える
肝初回通過効果を超える
という2つの関門があり、ここをどれだけの割合で通過できるかがバイオアベイラビリティの大小ということになります。
上の図のように、バイオアベイラビリティが大きい薬は
小腸から吸収されやすく、
肝臓でも代謝されにくい
という特徴があり、
反対にバイオアベイラビリティが小さい薬は
小腸から吸収されにくい
もしくは
肝臓で代謝されやすい
という特徴があります。
それぞれの特徴により、各薬剤のバイオアベイラビリティの大小が決まります。
結局、バイオアベイラビリティの理想は?
少し引っ張ってしまいましたが、私の意見としてはバイオアベイラビリティは大きい方が理想的だと考えています。
その理由は薬の吸収量の誤差による影響が小さいためです。
「薬の飲み合わせが悪い」とか「飲食物の影響を受ける薬」という場合のパターンの1つとして、バイオアベイラビリティの変動が挙げられます。
バイオアベイラビリティの変動?
図
バイオアベイラビリティの小さい薬剤は「小腸から吸収されにくい」もしくは「肝臓で代謝されやすい」という特徴がありました。
小腸からの吸収では、薬剤の物性の他、どのトランスポーターで吸収されるかなどの要因が吸収されやすさ(もしくは、吸収のされにくさ)に影響します。
また、肝臓での肝初回通過効果は主にCYP(シトクロムP450)や抱合反応などで代謝が行われるためです。
この「小腸からの吸収のされにくさ」や「肝臓での代謝されやすさ」の変動が一般的に相互作用と言われる部分であり、薬による影響だけではなく、飲食物が関与する場合もあります。
バイオアベイラビリティの変動を起こす相互作用として、胃内pHや胃内容排泄速度(GER)、CYPやトランスポーターの阻害があります。
ここでバイオアベイラビリティの小さい薬剤と血中濃度の変動について考えたいと思います。
バイオアベイラビリティの小さい薬剤は少ない量でも血中にたどり着けば、期待通りの効果が出る薬です。
逆に言えば、バイオアベイラビリティの上昇の余地がある薬であり、効果が何倍かに跳ね上がる可能性のある薬だとも言えます。
例えば、バイオアベイラビリティが90%の薬剤は上昇の余地が10%しかありません。もし、仮にバイオアベラビリティが100%になったとしても血中濃度と薬効が比例する薬剤なのだとしたら効果は約1.1倍です。
同じくバイオアベイラビリティが20%の薬剤を考えると上昇の余地は80%もあるために薬の効果は5倍になってしまいます。
バイオアベイラビリティが100%になるということはあまりありませんが、”バイオアベイラビリティが低い”=”上昇の余地がある”(=血中濃度の上昇の余地)となってしまうことがバイオアベイラビリティを考える上で気を付けたいことです。
薬の効果が
1.1倍になる可能性がある薬A」と
「5倍になる可能性がある薬B」
「の2種類を比較した際に使いやすいのは薬Aであることは容易に想像できるかと思います。
薬Bが血圧の薬だった場合、医師が1錠で十分と考え処方したはずなのに「何かのきっかけで5錠服用するのと同じ効果が出てしまう」というのはリスクだと感じてもらえると思います。
バイオアベイラビリティの変動で低血圧症状が起きる可能性がありますよね?(血中濃度と降圧効果がきれいに比例するわけではありませんが。。。)
また、逆のパターンとしてバイオアベイラビリティが下がる場合もありますが、その場合は薬の効果が弱くなります。
薬Aと薬Bのバイオアベイラビリティが半分になるとしたらどちらも薬効は半減すると考えることができますし、ほぼ吸収されなくなれば薬が効かないという場合もあるでしょう。
薬が効かなければ、改善が期待できないということになり、急性疾患であれば体調のさらなる悪化につながることがあるかもしれません。
しかし、そのような場合は他の処置が行われますし、一刻を争う状態であれば注射薬の使用になることが多く、そもそもバイオアベイラビリティを考える必要がありません。
慢性疾患であれば、
「この薬では効果が不十分なので薬を変更(もしくは追加)しましょう」
となるはずです。
そのため、薬が効きすぎること(身体に過剰な変化が起きること)に対して、薬が効果を出さないこと(服用前の体調から変化しないこと)の方がよほど致命的な疾患などでない限りは安全だとも考えることができます。
上記のように、バイオアベラビリティが小さい(上昇の余地がある)方が血中濃度の上昇が起きやすいために注意が必要であると言えます。
まとめ
では、今回のまとめです
バイオアベイラビリティは服用した薬が循環血流に届く割合
バイオアベイラビリティが小さい薬は上昇余地の大きい薬
上昇余地が大きければ、薬効は何倍にもなる可能性がある
今回はバイオアベイラビリティについてまとめました。
少し極端かもしれませんが、バイオアベイラビリティの大小は薬のリスクの大小とも言い換えることができるかもしれません。
大学のテスト以外ではあまり使わない印象があるパラメータですが、意外と実際の臨床にも影響していて奥が深いということを感じてもらえたようであれば嬉しいです。
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』シリーズは全巻持っていますが、薬物動態学を学びたいならvol.4がとても参考になるかと思います。
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