こんにちは! ネジです!
今回は
「学生時代、薬物動態は苦手だった」
「薬の違いを学んでるけど、なんだかイマイチ」
「添付文書を深く読めるようになりたい」
という方、特に新人薬剤師の方向けの記事です。
大学で学んだことを実際の現場で使える形にするためには大学の知識にプラスアルファの知識が必要です。
私自身、「学生時代に薬物動態学が得意だった!」とは言えませんが、国家試験に合格し、薬剤師として働くようになってから薬物動態学の重要性を改めて認識しました。
薬物動態学を学ぶことは薬の理解を深めるためや薬剤師の専門性を広げるためには必須だと思っています。
今回のテーマである”定常状態”について理解を深めることは服薬支援の幅を広げることにもつながると考えていますので、この記事を読んで習得してもらえると嬉しいです。
では、さっそく学んでいきましょう!
Contents
定常状態とは?
まず定常状態とはどのようなものだったかの確認です。
定常状態とは
「薬が身体の中に入ってくる量と身体から出ていく薬の量が一定になった状態」
であり、血中濃度がある程度の幅に収まった状態です。
図にすると以下のようになります。
上の図の中で、緑色の枠で囲まれている部分が”定常状態”です。
薬は身体の中では異物と判断されるため、常に代謝や排泄を受けます。
最初のうちは身体の中に入っていく”吸収”と身体から出すための”代謝”や”排泄”がそれぞれに起こりますが、消失半減期の4~5倍程度の時間が経過すると定常状態となります。
また、定常状態に至った後、服用を中止すれば薬は身体から出ていくのみとなるので消失半減期ごとに半分になっていきます。(100%→50%→25%→12.5%→6.25%…)
多くの薬学部では、
「半減期の4~5倍で定常状態になる」
ということは学ぶと思います。
しかし、全ての薬に定常状態があるわけではなく、「定常状態がある薬」と「定常状態がない薬」が存在するということは意外に学ばないのではないでしょうか?
そこで重要になってくるのが「定常状態がある薬」と「定常状態がない薬」を見分ける方法です。
定常状態を有無の調べ方
定常状態の有無は比較的簡単な式で調べられます。
この式はRitschel(リッチェル)理論とも呼ばれており、「投与間隔/消失半減期」の計算結果が「3以下になるか」、「4以上になるか」で定常状態の有無を調べられます。
投与間隔と消失半減期の単位は「時間」なので、投与間隔が
1日1回なら24(時間)
1日2回なら12(時間)
1日3回なら8(時間)
で計算し、消失半減期は各薬剤の添付文書等に記載されているものを利用します。
なぜ、3以下では定常状態を持ち、4以上で定常状態を持たないかというと、
「3以下の場合には身体の中で蓄積を起こすが4以上では蓄積が起こりにくいため」です。
単回投与を考えてみると血中濃度が一番高くなった時点(最高血中濃度)を100%として消失半減期を迎えるごとに50%→25%→12.5%……と減っていきます。
Ritschel理論は投与間隔と消失半減期の比なのでその計算結果が3以下ということは
3回目の消失半減期が来るまでに次回の投与が行われる
と言えます。
逆に4以上になる場合は
4回目の消失半減期以降に次回の投与が行われる
ということになります。
そのため、計算結果が3以下となる場合には次の薬の投与タイミングに吸収された薬剤の少なくとも12.5%が残っている状態、4以上となる場合はどんなに多くとも6.25%しか薬が残ってない状態と言えます。
数字だけ見るとそこまで大きな差ではないように見えますが、そのわずかな差が蓄積性には大きく関与しています。
投与間隔と消失半減期の比の結果が反復投与した場合にどのように蓄積していくかを計算した表です。
比が小さい方が蓄積する割合が大きく、大きくなるほどに単回投与とほぼ変わらない結果となることが分かるかと思います。
この結果からもRitschel理論では”3以下”と”4以上”という線引きになる理由が理解して頂けるのではないでしょうか?
定常状態の有無で何が変わるのか?
定常状態の基本的な説明と定常状態の有無の調べ方について記載をしましたが、
「定常状態の有無ってそんなに大事なの?」
という疑問がある方もいると思います。
そこで定常状態の有無により考えられることとしては大きく以下の2つが挙げられます。
薬理作用が安定するタイミングを推測できる
適切な用法を検討する上で役立つ
定常状態の有無が分かると期待される薬効が単回投与で発現するのか、複数回の投与が必要かということが分かります。
これは薬効の発現時期だけでなく、”薬理作用による副作用”の発現などを考える際にも使える考え方です。
“薬理作用による副作用”については以前に薬の副作用について記事を作成しましたので気になる方は下の記事をチェックしてみてください。
また、臨床では添付文書上とは違った用法での処方やそもそも添付文書上で「1日1~3回」というように用法に幅があるような場合もあります。そのような場合にも定常状態の有無や薬物動態の考え方を理解していると「薬効が切れるタイミング」等についての説明もしやすくなると考えています。
Ritschel理論の注意点
Ritschel理論を考える上で注意点があります。
それは消失半減期や血中濃度と薬理作用が比例しない薬剤があることです。
NSAIDsなど血中濃度と薬理作用が比例する薬剤の場合にはこの理論が当てはまりますが、長期間投与することで効果を示す認知症治療薬などでは血中濃度と薬理作用が比例しないため、「定常状態=薬効が発現し安定し始める時期」とはなりません。
また、分布容積が大きい薬などは1コンパートメントモデルで説明ができない部分があります。
そのため、
「Ritschel理論だけ知っておけばOK!」
とはならないことは理解しておく必要があります。
まとめ
定常状態の有無はRitschel理論で調べられる
定常状態の有無から薬効や副作用の発現タイミングが予測できる
Ritschel理論が通用しない薬もある
今回は定常状態の有無の調べた方とRitschel理論から得られる情報についてまとめました。
新人薬剤師の方はこれから地域の薬剤師会の勉強会や各学会への参加、製薬メーカー主催の勉強会という形で医薬品の説明を受ける機会が多くなるはずです。
その際に薬物動態学を理解していると情報の批判的吟味にも役立ちますので学びのきっかけになったら幸いです。
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では、次回もよろしくお願いします!
追記:活用例を記事にしましたので気になる方は以下の記事も読んでみてください!
薬物動態学の記事として「バイオアベイラビリティ」についても書きました!