こんにちは! ネジです!
今回は前回に引き続き、薬物動態学の内容ですが、テーマは「薬を飲んだ後、効果はどれくらい続くの?」です。
薬の代謝と排泄は遺伝子の違いや加齢、基礎疾患などでも個人差が出やすい部分でもありますのでそこについても触れていきたいと思います。
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薬の代謝ってなに?
薬の”代謝”について前回は「分解」という言葉を使用していましたが、本当はこれも少し違います。
身体の中で起きる薬の代謝は「水に溶けやすくなるようにすること」を指していて、決して薬の構造をバラバラにしているわけではありません。(構造が少し小さくなることはあります)
薬や生体内の物質は様々な構造を持っていますが、基本的には反応を促す酵素により、水に溶けやすい構造になるよう少しだけ構造を変えられます。
なぜ、「水に溶けやすくする」のかというと水に溶けやすくすることで身体から出ていきやすくなるためです。
代謝は大きく分けて2種類ある
代謝には第一相反応と第二相反応と呼ばれる2つの反応があります。
少し難しい話になるので今回は簡単に説明させて頂きますが、第一相反応は酸化・還元・加水分解などを行うことで水溶性を高める反応で、主に肝臓に存在するシトクロムP450(CYP)と呼ばれる酵素が行う反応が特に重要です。
第二相反応は抱合反応と呼ばれる反応で、身体の中にある物質を薬にくっつける(抱き合わせる)ことで水に溶けやすい全体的に水に溶けやすい物質とします。
このCYPという酵素は個人によってもともと少ない量しか体内に存在しないという方もいて、そのような方だと薬の効果が強く出てしまうこともあります。この点の詳細については別記事を書こうと思っていますのでここでは触れないでおきます。
CYPによる反応は他の薬や食べ物の影響、個人個人の遺伝子の違い、加齢による変化など様々な因子によって影響を受けますが、抱合反応は影響を受けにくく個人差が少ない反応だと言われています。
代謝された薬は体外に排泄される
“排泄“は排尿や排便などの普段使う言葉の意味にも近く、「薬を身体から出すこと」ことを指しています。
代謝された薬は身体から排泄されます。また、代謝を受けずに排泄される薬もあります。代謝されたかされないかという違いはどこから薬が排泄されていくのかという違いになります。
- 水溶性は水に溶けやすい、脂溶性は油に溶けやすい性質
水溶性の薬は代謝を受けなくても水に溶けやすい性質を持っているため、尿として排泄されます。
脂溶性の薬は代謝を受けやすい構造か代謝を受けにくい構造かで排泄経路が変わり、代謝を受けやすい薬の場合は水溶性の物質となり尿中に、代謝を受けにくい物質はそのまま糞便中に排泄されます。
排泄で重要なこと
排泄の経路が2種類出てきましたが、尿中に排泄する薬を”腎排泄の薬”、糞便中に排泄される薬を”胆汁排泄の薬”と呼びます。
その中で腎排泄の薬は加齢や高血圧、糖尿病などで腎臓の機能が衰えてしまう方も多いため、通常よりも飲む薬の量を減らすなどの注意が必要になることがあります。
それに比べると胆汁排泄の薬は薬の量の変更などもあまり必要ありません。
吸収・分布・代謝・排泄(ADME)から考えるべきこと
前回からここまでの内容で薬が吸収されて、身体中に広がり(分布)、代謝を受けて、排泄されるまでの一連の流れを概ね理解して頂けたかと思います。
この流れの中で何かがうまくいかなくなるだけで、予定よりも薬の効果が弱くなったり、逆に強く出過ぎてしまって副作用につながってしまうこともあります。そうならないように考えるための学問が薬物動態学であり、薬剤師がいる理由の1つだと私は思っています。
ここからはADMEを数値化した”薬物動態パラメータ“について説明をしていきます。
薬物動態パラメータとは?
薬物動態パラメータはADMEの各過程を数値化したものです。主に第3回の医薬品開発の記事で紹介した第Ⅰ相臨床試験で健康な成人を対象に調査がされます。
- どれくらいの時間で血液の中の薬が最大になるの?(吸収)
- 血液の中に薬はどれくらい存在している?(分布)
- 代謝・排泄の経路は?(代謝・排泄)
- 薬が身体の中からなくなるまでどれくらいかかる?(代謝・排泄)
上記のような疑問を数値化したのが薬物動態パラメータです。
これだけだと理解しにくいため、下のグラフで考えていきたいと思います。
- 縦軸の血中濃度は血液の中にある薬の量がどれくらいかを示している
- 服用した瞬間を横軸の開始時点としている
- このグラフは時間とともに薬が体内に吸収され、体外に排泄される様子を表している
このグラフで赤丸の部分がCmax(最高血中濃度)です。血液中の薬の量が一番多くなった状態のことです。また、Cmaxに達した時間がTmax(最高血中濃度到達時間)となりますが、少しわかりにくいので拡大した下の図で確認したいと思います。
この図からはCmaxが500ぐらい、Tmaxは約1時間であることが読み取れます。また、血中濃度がCmaxの半分である250になるのが、服用の4時間後であるため、T1/2(消失半減期)は3時間となることがわかります。(500→250になるのに3時間かかる)
薬の効果は半減期が3~4回程度(Cmaxの12.5%~6.25%になる)でなくなると言われています。
このことからTmaxである約1時間後には薬が体内で働き始めていることと、9時間~12時間後には薬の効果がほぼなくなっていることが予測できます。(薬理作用次第ではこの予測とは異なる場合もある)
また、CmaxとAUC(血中濃度曲線下面積)はそれだけでは役に立たない数値で、他の条件と比べることでどれぐらいの変化があったかを見ます。
- 青い線とオレンジ色の線の下側の面積がそれぞれの場合のAUCを示している
上の図のオレンジ色の線は半減期が延長した場合の血中濃度を示しています。半減期が延長した分、Cmax後のグラフ全体が右側にずれるような形となっています。その分、オレンジ色の線のAUCが青い線よりも大きくなっており、薬の効果が増大していることがわかります。
このように半減期が大きくなる要因として、肝臓や腎臓が悪くなることでの代謝機能の低下や排泄の遅延が挙げられます。
また、下の図のようにCmaxが増大する場合もAUCは増大します。Cmaxが増大する要因としては食事や他の薬の影響で吸収される薬の量が多くなってしまった場合などが挙げられます。
つまり、「CmaxやAUCが増大する」ということは「薬が予想よりも強く効果を出してしまう」ということを表しています。
特にCmaxについては「300~600の間が治療として適切で、600を超えると副作用が出やすくなって危険」ということが知られているような薬もあります。
薬物動態パラメータの注意点
代表的なパラメータの説明は以上ですが、紹介したパラメータを考える上での注意点を補足させてもらいます。
- CmaxとAUCは他の薬と比べても意味がない
- TmaxとT1/2は他の薬との比較ができる
各薬剤によって「どれくらいの薬の量で効果を出すか」は異なります。そのため、CmaxやAUCなどの「薬がどれくらい体内にあるか」を示す数値は他の薬と比べても意味がなく、同じ薬を異なった状況の人(肝機能が正常な人と悪化している人など)が飲むような場合に使用するパラメータです。
逆にTmaxやT1/2は同じ系統の薬の中で「この薬の方が早く効く」や「この薬の方が効果が持続する」などの比較ができます。
まとめ
では、今回のまとめです。
・代謝は薬を水に溶けやすくする
・排泄は身体から薬を出す過程で、尿か糞便として薬を体外に出す
・薬物動態パラメータは薬の動きを予想する上で重要
前回と今回は身体に薬が入ってから出ていくまでの過程についてのお話でした。
少し難しい話でしたが、薬を飲む回数なども実は今回のような理論から決まっていることを理解して頂けたのではないかと思います。
では、次回もよろしくお願いします!