こんにちは! ネジです!
今回は薬を飲むことで期待できる効果についてのお話です。
実際に患者さんと話をしていても「この薬って飲まないとダメ?」というような相談を受けることがあります。
薬剤師が簡単な気持ちで「飲まなくても大丈夫ですよ」ということはできませんが、中には「この薬は可能であれば中止してもいいのでは?」と思ってる場合もあったりします。
特にポリファーマシーの可能性がある場合は「この薬は減らしてもいいのでは?」なんて考えていたりもしますし、医師に提案することもあります。
しかし、当然のことですが、ほとんどの薬は中止しない方が良い薬です。
また、個人個人の背景が異なるため、薬によるメリットを完全に数値化することはできませんが、ある程度の予測ができている疾患もあり、そのメリットを知ることで薬を服用する意味を理解してもらうことも重要だと考えています。
今回は「動脈硬化性疾患予防ガイドライン2017年版」に記載されている内容とコレステロールを下げる薬の効果について記載していきたいと思います。
Contents
予防のための薬
まず、患者さんが「この薬を続ける必要があるのか?」と考える理由は効果の実感が乏しいためであったり、経済的な負担があるためかと思います。
これは患者数が多い生活習慣病(高血圧、脂質異常症、糖尿病、高尿酸血症)の治療(薬物療法や食事療法)の目的が現在の症状を抑える以上に将来的な合併症の予防であるからです。
どこかが痛いとか痒みがあるといった症状であれば薬を使用することで、ある程度の効果がすぐに実感できるため、そのような疑問を持ちながらの治療にはなりにくいはずです。
一次予防・二次予防・三次予防
予防にも実は種類があり、何を予防するのかで一次予防から三次予防に分けられ下の表のようになります。
一次予防は病気にならないよう健康なうちに取り組む予防です。健康診断等でなにも指摘されないうちから食事の配慮や運動を行う段階や、健康診断で「コレステロールの数値が少し高いので食生活に気を付けてください」と指摘を受けるが薬物療法などには至らない程度の段階です。(家族歴があるなど、高リスクと考えられる場合には一次予防として薬物治療が行わることがあります)
二次予防は病気を早期に発見・治療することを目的とする段階で、生活習慣病であれば薬物療法をしている段階です。薬物療法を実際に行っていても「予防」と呼びます。これは将来的に起こる脳梗塞や心筋梗塞などの疾患をコレステロールを下げることで「予防」することを目指しているためです。
最後の三次予防は脳梗塞等により麻痺が生じるなど、生活をする上で必要な動作ができなくなった場合に、その機能を回復させたり、生活の質(QOL)の低下を防止するというものです。
ここで重要なのは、一次予防と二次予防は”未治療の段階もしくは予防のための治療を開始して将来的なリスクを減らすために行動する段階”であることから明確な境界線が引きにくいのに対し、二次予防と三次予防の間には”疾患による身体機能への影響”があり境界線が明確であるということです。
二次予防までは特に体への自覚症状がない場合や、自覚症状があったとしてもそれほど不便を感じないという段階ですが、三次予防の段階では明らかに生活に影響が出てきます。
“血圧が高い” “コレステロールが高い” “血糖値が高い”などの生活習慣病の患者さんは一次予防~二次予防の段階であるため、自覚症状があることは少ないです。そのため、「薬を飲む意義があるのか?」という気持ちにもなりやすいのだと思います。
ちなみにですが、「健診」と「検診」は字が異なることで内容も異なり、「健診(健康診断の略)」は総合的に見て健康かどうかを調べるもので、「検診」は癌などの特定の疾患があるかどうかを検査する意味で用いられます。
薬を服用する意義はどれくらいあるの?
「この薬を飲むことであなたが重篤な疾患になる可能性が○○%下がります」ということを医療従事者側から明確に伝えられれば、患者さんも納得した上で治療に取り組めるようになるかと思いますが、現在の医療では難しいです。
上記のように疾患のリスクがどれくらい減るかを専門用語で”相対リスク減少”や”絶対リスク減少”と呼び、治療薬を飲んだ人と飲んでない人で疾患になる可能性がどれくらい下がるかという研究は数多くされています。
しかし、目の前の患者さんが持つ背景(人種や性別、病歴、現在の検査値の数値など)がほぼ同じ集団での研究があるかというと、そのような研究を探すことは難しいため実際にこのような話を数値を用いて説明された方は少ないのではないかと思います。
そんな中で「動脈硬化性疾患予防ガイドライン2017年版」は日本人における冠動脈疾患(狭心症や心筋梗塞などの疾患)のリスクを”吹田スコア”を用いて数値化できるようにしています。
吹田スコア
吹田スコアとは大阪府吹田市で行われた研究から10年間に起こりうる冠動脈疾患の確率を予測するためのスコアです。
気になる方は以下の手順に沿って計算をしてみるか、「動脈硬化性疾患予防ガイドライン2017アプリ」のWebページで数値を入力して計算してみて下さい。(「あなたは医療従事者ですか?」の部分を選択すると開始となります。「はい」「いいえ」どちらで答えても計算できます。)
①以下の「問1」と「問2」の有無を答えて、どちらとも該当がなければ②に進む。
冠動脈疾患のリスクを調べるものであるため、冠動脈疾患の既往(経験)があれば二次予防になります。
また、問2の疾患に当てはまる場合は年齢など関係なく、「高リスク患者」に分類されるため、スコアの計算は不要となります。
問1、問2に該当した場合は④までお待ちください。。
②以下の表の各項目から、当てはまるものの点数を足していき合計点数を求める。
上記の表の補足ですが、「喫煙の有無」は現在の喫煙の有無です。そのため、「以前は喫煙していたが、今は禁煙している」という場合は「喫煙無し」の扱いとなります。
「耐糖能異常」は糖尿病予備軍の状態です。健康診断等で医師から指摘を受けていなければ非該当として問題ありません。(加点しなくてOK)
また、「早発性冠動脈疾患家族歴」は親・兄弟・子供のうち誰かが男性であれば55歳未満、女性であれば65歳未満で心筋梗塞や狭心症などの冠動脈疾患になった経験があるかどうかで判定します。「耐糖能異常」同様になければ加点しなくて問題ありません。
合計が計算できたら次に進みましょう。
③上の計算で求めた合計点数からどのリスク分類に当てはまるかを確認する。
合計点数が高ければ高いほど、10年以内に冠動脈疾患(心筋梗塞や狭心症などの病気)になりやすい状態だと判断できます。
また、リスク分類から④の数値でコレステロールを管理することが望ましいと言われています。
④リスク分類に合わせてコレステロールの管理目標値を確認する。
冠動脈の既往がある方やリスクが高いと判定された人ほど、将来的な心筋梗塞等の発症予防のために厳格な管理が求められます。
吹田スコアの中身を見てみると・・・
先ほども計算に使った上記の表ですが、①年齢、②性別、⑧早発性冠動脈疾患家族歴は変えることができませんが、③~⑦の項目は食生活や運動習慣など、生活習慣を見直すことで改善することが可能な項目です。
喫煙している方は禁煙すればスコアが5点低くなりますし、減塩や運動などで血圧やコレステロール、血糖値が改善すればそのほかのスコアも数点~数十点改善します。
計算してみると「10年以内の発症確率って意外と少ないな」と感じた人もいるかもしれません。
コレステロールの薬を飲んでHDLやLDLの数値が改善し、スコアが10点程度改善しても「1%とか2%しか変わらない」という場合ですね。
確かに「100人中2人もしくは3人」か「100人中1人」かというのはあまり大きな違いではないように感じるかもしれませんし、そのために毎日薬を継続することやそのために経済的な負担をしたくないという方もいるかと思います。
しかし、その「100人中1人」になると場合によっては亡くなる方もいますし、発症後は薬の量も確実に増えるため、服薬継続の手間や経済的な負担は大きくなります。
また、今回のスコアは「冠動脈疾患」のリスクしか考慮していないことも考える必要がありますので利用する際はご注意ください。
まとめ
では、今回のまとめです。
・予防にも種類がある
・吹田スコアは薬の服用意義確認に有用
・薬を飲む意味を患者側も理解してより良い医療へ
今回は一次予防~三次予防の違いとスコアを用いた疾患リスクの確認という内容でした。
「健康診断で○○の数値が高いって指摘されてしまった」という経験はあるかと思いますが、「それがどの程度のリスクで将来的にどのように生活を送ることが目的であるか」ということを医師や薬剤師等の医療従事者と話した経験がある方は少ないのではないかと思います。
本来であれば、患者が治療に納得した上で方針を決めることが理想ですが、現実の医療においては重い病気以外ではリスクとベネフィットを勘案した情報提供はできていないと感じています。(実際の業務の中では様々な理由で行うことが難しいとも思います)
現実の病院や薬局では今回紹介したような話をもう少し時間をかけて行うことができていないため、「このようなことが普及して、予防医療の意識が向上すれば・・・」という思いで記事にしました。
全ての患者さんの全ての疾患に今回のようなリスクを想定することができるわけではありませんが、研究も進んでいるため、「各薬剤を用いるとどのような効果が期待できるか?」という内容は日々、情報が更新されています。気になる方はかかりつけの医師や薬剤師にも相談してみてください。
では、次回もよろしくお願いします。