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第9回 ポリファーマシーってなに?

こんにちは! ネジです!

今回はここ数年で大きな話題になっている”ポリファーマシー”について説明していきたいと思います。

私が学生だった頃には聞いたことがなかった言葉ですが、最近の薬剤師業界では大きな課題の一つとして認識されている言葉です。

関係ないと思っている方もいると思いますが、意外と身近に潜んでいる問題だったりもしますので今回の記事を読んで理解を深めて頂ければと思います。

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そもそもポリファーマシーって?

ポリファーマシーとは「poly(多くの)」と「pharmacy(薬)」という2つの単語を合わせて作った造語であり、日本語では”多剤併用”と訳されています。

しかし、薬を何種類以上使用することが”多剤併用”に該当するのかというと明確な定義はされておらず、「5~6種類以上の薬を使用していること」とか「2種類でも場合によっては多剤併用である」などと言われています。

定義がはっきりしていない理由としては元々が次のようなデータから出てきた概念だからとも言えます。

上のグラフの左側は「入院患者の服用薬剤数と薬物有害事象の割合」のグラフで、右側は「外来患者の服用薬剤数と転倒発生の割合」をグラフにしたものです。

棒グラフの上に「*」のマークがついているものが有意に関係があることを表しており、ちょうど”5~6種類以上”の薬を使用している患者で薬物有害事象や転倒が多くなっていることが分かるかと思います。

そのため、「5~6種類以上の薬を使用していること」が1つの目安ともされています。

2種類だけでも多剤併用?

もう1つの「2種類でも場合によっては多剤併用である」とはどのような場合かですが、これは”薬による副作用を抑えるために新しい薬を追加している状態”を指します。

「そんなことあるの?」と思う方もいるかと思いますが、実際にこのような状態で長い期間薬を継続してしまったり、副作用を抑える薬が重なってしまった状態になっている患者さんがいるために、薬局や病院で”患者さんの薬を減らすことができたことに対する点数”が調剤報酬、診療報酬として認められています。

少しイメージしにくい部分だと思いますので具体例を用いて説明していきたいと思います。

痛み止めを飲んだら・・・

ポリファーマシーの入り口として例に上がりやすいのが痛み止めの使用です。

痛み止めでよく聞く副作用としては胃が荒れるというものだと思いますが、それ以外にも薬の作用の延長で起きる副作用があり、その1つが浮腫(むくみ)です。

痛み止めにも種類がありますが、上記のような副作用が出やすいのは痛み止めとしてCMもされていて有名なロキソニン®やロキソニン®と同じ作用を持つNSAIDs(非ステロイド性抗炎症剤)と呼ばれる薬剤です。

若い人であれば痛み止めを慢性的に使用することも少なく、浮腫が出ても軽度であったり、医師や薬剤師の指示での痛み止めが休止となるため問題となりにくいのですが、高齢者の場合だと少し経過が異なります。

ここで”若い患者”と”高齢の患者”に対する考え方の違いを説明します。

オッカムとヒッカム

特に医師が患者を診察する際に重要な考え方として”オッカムの剃刀”と”ヒッカムの格言”というものがあります。

オッカムの剃刀は「ある事柄を説明するためには、必要以上に多くを仮定するべきでない」という考え方であり、医療では「いろいろな症状があっても原因(病気)は1つである」と考えることを言います。

逆にヒッカムの格言は「どの患者も偶然に複数の疾患に罹患しうる」という考え方で、簡単に言うと「複数の症状がある場合はそれぞれ別な病気によるものである」と考えることです。

この2つは相反するものですが、主に50歳未満の患者にはオッカムの剃刀、50歳以上の患者にはヒッカムの格言を適応するのが診断の確実性を上げるために重要だと言われています。

つまり、複数の症状があった際に、若くて病気に罹りにくい世代ならその複数の症状を説明できる1つの疾患、高齢者になってくると複数の疾患で複数の症状が出ていると考えられるということです。

ポリファーマシーの原因

このような背景があるため、高齢者の関節痛などで痛み止めを飲んで浮腫になった際に医師が「浮腫みが出てるということは心臓が悪いのかな?」などと考え、浮腫改善のために利尿剤が処方されることがあるのです。

この場合、本当に必要な対処としては”痛み止めの中止”のはずです。

そのため、「2種類でも場合によっては多剤併用である」と言われ、高齢者の場合には複数の医療機関を受診していることなどの背景から見過ごされ、このような状態が重なっていくことで薬が増えていく場合があります。

副作用を改善するための薬が続くと・・・

上の図は痛み止め開始から薬が増えていく例で、図は便秘までですが、痛み止めの服用→副作用の浮腫→改善のための利尿剤→排尿回数の増加→改善のための頻尿治療薬→副作用での便秘→便秘薬の追加→血液検査でカリウム低下→カリウム補充のための薬剤追加という流れです。

本来、痛み止めだけの治療のはずが、”副作用を薬で改善する”ということが続き、利尿剤、頻尿治療薬、便秘薬、カリウム製剤と4つの薬が追加されてしまっています。

嘘のような話と感じるかもしれませんが、ある程度の長い期間をかけて上記のような状態になっている場合もあり、実際にこのような状態になっている患者がいるため問題となっています。

ポリファーマシーの原因と対策

ポリファーマシーの原因

・複数の医療機関を受診

・自分が使用している薬や病気について知らない

・高齢で薬の管理が難しい

ポリファーマシーの対策

・お薬手帳の所持やかかりつけの薬局を決める

・可能な限り、自分の病気や薬を把握する

・服用できていない薬がある場合には正直に伝える

複数の医療機関を受診すること自体は悪いことではありませんが、複数の医療機関を受診することで薬の影響や継時的な変化を追うことが難しくなります。

お薬手帳を各医療機関で医師や薬剤師に確認してもらったり、”どの病院の薬もこの薬局でもらう”と決めて(かかりつけ薬局)1つの薬局からもらうこともポリファーマシーを早期に発見・対処するもしくは未然に防ぐためには重要です。

また、特に高齢者の抱える問題ですが、定期的に飲む薬が数年~数十年の時間をかけて少しずつ増えてくるとどの薬が何に効果を出す薬なのかを把握していない場合や薬が増えることで薬を管理ができなくなる場合があります。

薬を把握できていないことの問題点は以下のようなものです。

  • 本来1錠だけ飲む薬を2錠飲んでしまう
  • 飲み忘れで飲めていない状態が続く
  • 別な病院へ行き、同じ効果の薬をもらってしまう

必要以上に薬を飲んでしまうことはもちろん良くないですが、飲み忘れ等で飲めていない状態が続くことで「効果不十分」と医師が判断し、薬が増量になるケースもあります。

ポリファーマシーの研修会で笑い話のように言われるのが「なにかの理由で入院した高齢者が持参した定期薬を飲むと体調が悪くなる」といった話です。

家では自分で管理を頑張るものの飲み忘れてしまっていたものが、入院することで全ての薬を毎回飲むようになると薬が効きすぎてしまい、体調に影響が出てしまうというものです。

実際、薬の飲み忘れによって起きる残薬の問題も大きな課題となっています。残薬問題についてはまた別な記事で紹介したいと思います。

まとめ

では、今回のまとめです。

まとめ

・ポリファーマシーは2種類の薬だけでも該当する場合がある

・医療を提供する側と受ける側の双方に原因が潜んでいる

・薬を多く飲むこと全てが悪いわけではない

“多くの薬を飲むこと”や”薬の副作用を薬で改善すること”が全て悪いわけではありません。疾患によっては複数の薬を飲む必要があることもありますし、どうしても必要な薬が副作用が強い場合には薬で副作用を抑えることもあります。

ポリファーマシーは医療として介入すれば改善できる可能性がある状態のまま薬を続けている場合のことであるため、その点はご理解いただきたいと思います。

基本的には、持病が増えて薬を多く服用するようになる高齢者で起きやすい問題と考えられていますが、慢性疾患で薬を使用している患者さんであれば可能性はゼロではない問題ですのでポリファーマシーという考え方を覚えていて頂けると嬉しいです。

では、次回もよろしくお願いします!

ABOUT ME
ネジ
6年制薬学部を卒業し、現在は地方の薬局で管理薬剤師をしています。 薬や薬局についての情報の他、株式投資や読んだ本の紹介などしていきたいなと考えています。
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