こんにちは! ネジです!
今回は連載の最終回としてこれからの薬剤師にどのようなことが求められるか、どのような環境変化が起きるかを考えてみたいと思います。
前回、前々回の記事も時間があればぜひ、読んでみてください。
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薬剤師の需給予測
まず、現在、薬剤師の資格を得るためには6年制の薬学部を卒業しなければなりません。これは、2006年に国家試験の受験資格が4年制大学卒から医師や歯科医師と同様に6年制大学卒へと変更になったことが背景にあります。
ちょうどそのころに薬学部の新設が全国の私大で行われたため、「薬剤師は将来的には過剰になり、職がなくなる」ということが10年以上言われ続けています。
現場で働く薬剤師としての実感は今のところ供給過多とは思いませんが、実際のところ、薬剤師の需要と供給はどのように推移していくと考えられているかを見ていきたいと思います。
薬剤師の需給に関する研究
「薬剤師の需給動向の予測および薬剤師の専門性確保に必要な研修内容等に関する研究」という研究が2019年の5月に公開されています。この研究では以下の図のような需給予測が行われています。
この研究の前提をまとめると以下のようになります。
・薬学系大学の入学者数は将来の大学進学予定者数から計算する
・薬剤師としての勤務は70歳までで、それ以上は離職扱いとする
・生産年齢における死亡率は一般と同様に考える
・医薬分業率は75%までは徐々に上昇するが75%を上限として維持する
・来局患者数は「2017年度の人口と対象となる推計年度の人口比」から計算
・薬局における必要薬剤師数は2016年度の「処方箋枚数÷薬剤師数」で計算
・病床数は2015年度の稼働病床数を2025年度の予測から計算
・大学や医薬品関係企業での従事者数は一定
研究からは2019年現在で需要を供給が上回っている状態とのことですが、その差は2000人程度です。先ほども記載しましたが、実際に薬局で勤務していて供給過剰だと感じたことはありませんが、これは薬剤師が都市部に偏在しており、地方ではまだ供給が不足しているためでもあるかもしれません。
データからはあと5年程度で需要と供給の差は10000人程度にまで拡がります。つまり、今までと同じ業務を行うだけであれば需要が供給を下回った状態から抜け出せないということです。
AIと薬剤師
薬剤師という職業に限らず、AIや自動運転などの新しい技術に仕事を奪われる可能性があるされる職業はありますが、ここでは薬剤師とAIの関係について、現在の私の考えを記載していきたいと思います。
まず、AIはなにができるのか?
AIというと”人工知能”と訳されるだけあり、”自分で考え、適切な答えを導き出すもの”と考える方が多いと思います。イメージとしてはドラえもんのように自分自身で考えられるAIですね。
また、AIが囲碁や将棋などで人間に勝ったことも記憶に新しいのではないでしょうか?
このようなことから「AI=人間よりも考えることが得意で自分自身で考えて答えを出すもの」というイメージを持っている方も多いかもしれませんが、それは少し違います。
専門的な用語では、前者のドラえもん型の人工知能は汎用型人工知能、後者の囲碁や将棋が得意な人工知能を特化型人工知能と呼び、現在は特化型人工知能の研究が盛んに行われているようです。ちなみにですが、汎用型人工知能というのは簡単に言うと「なんでもできる人工知能」です。
今年、読んだ書籍の一つに『AI vs 教科書が読めない子供たち』という書籍があります。(近々、この本についての書評を書く予定でいます)
私はこの本を読むことでAIがどのように学び、質問に対する答えを導き出しているか、また、AIがどのようなものかを知りましたが、読んでからは”AIに仕事を奪われる不安”というものは小さくなりました。
AIの学び方と特徴
AIは特化型人工知能のようにある程度決まったルールや枠組みの中で能力を発揮することは得意ですが、ドラえもん型である汎用型人工知能が活躍するようになるためにはまだハードルがあります。
上記の書籍の中でも言及されている内容ですが、AIの特徴としては以下のような事柄が挙げられます。
・基本的に答えを導くために教師データが必要
・考えているのではなく、過去の情報からより適切と思われる答えを探すだけ
・AIには”人間が持つ常識”が搭載されていない
今回は「AIがどのようなものか」を掘り下げる記事ではないので簡単な説明とさせていただきますが、AIはある質問に対して過去の事例から「一番確率の高いもの」もしくは「一番適切と考えられるもの」を選び、それを答えとするというものだと考えてもらえるとよいかと思います。
そのため、過去の事例が少ない、もしくは全くない場合などはその過去の事例で行った行動が実際は誤っていると考えられるものでも正しいと判断してしまったり、答えを導き出すことができないといった状態になってしまいます。また、基になるデータが間違っていれば、AIの判断は間違ったものとなります。
この特徴は囲碁や将棋などの明確にルールや勝ち負けが決まっているもの、つまりは想定外がない状態で、同じような事例からより勝ちに近くなる手順を探し出せば良いという状況では大きな効力を発揮しますが、新規に発生した問題などについては良い解決策を提案することができません。
また、常識がないことで起きる弊害も大きく、例えば、「熱を下げる」ための行動として、「解熱剤の使用」の他に「死ぬ」といった回答をしてしまうような場合があります。人間が死ねば、体温は下がりますが、一般的に熱を下げたいという要望の大前提として「生きるために」ということがあるはずです。しかし、常識がないことでそのような考え方に至る可能性もあるのです。
薬剤師がAIを活用する未来
私は前項のAIの特徴から薬剤師が今後、AIに仕事を奪われるよりも活用し共存していく未来となる可能性の方が高いのではないかと考えています。
例えば、処方内容から処方量の過量や過少、相互作用をピックアップすることはAIが行い、それに対して不足している情報を患者から聞き取りを行うことや医師に対して適切に疑義照会を行うことが薬剤師の役割になっていくのではないかと思います。
そのために、AIが導いた答えを理解・判断し、その答えに対して必要な行動ができるような薬剤師が必要だと思いますが、現段階ではそのレベルの薬剤師がどの程度いるかが問題になるかと思います。
教師データを作る存在としても薬剤師が必要になると思いますし、薬剤師がAIによって直接的に仕事を奪われることはないと思いますが、現状よりも深く考えられる薬剤師になる必要性はあるのではなかと思います。
薬剤師の市場価値
ここまで薬剤師の需給予測とAIの台頭について話をしてきましたが、ここから考えられるのは”薬剤師”という資格の市場価値の低下だと考えています。
前回と前々回の記事で記載した過去から現在については、純粋な需要が大きく、供給が少ないという状況から相対的に”薬剤師”の市場価値が高まっていた時代と考えられます。そのため、”薬剤師”という資格があれば、実際の業務を行う能力が低い、人間性にやや問題がある、生産性が低いなどと言った社会人として必要とされる能力がやや欠落していても問題なく就職ができ、一般的な暮らしをする上で問題ないほどの収入を得ることができました。
上記のような状況がずっと続いてきたため、患者が質問をしても明確に質問に答えられなかったり、「詳しい話は医師に聞いてください」などと他責状態で信頼を得られないような働き方をしている薬剤師も散見されたのだと思います。
しかし、このまま薬局や薬剤師が大きな変化をせずに推移するとすれば、需給が悪化し、供給過多となり、薬剤師間での競争が生まれます。その段階で、薬物療法に責任を持ち、患者と医師の橋渡しや提案などができる薬剤師にならなければ生き残れなくなってくるはずです。
そして、ある程度大きなチェーン薬局では、一般の労働市場同様に40代で早期退職の対象になる薬剤師が出てくる可能性もあるのではないかと思います。
これは私が先輩薬剤師から学んだことでもありますが、薬剤師は”薬剤師”という資格がなければ、薬剤師をしていた時の給与を維持することができないということがほとんどだと思います。そのため、”薬剤師”の職能を全うすることがこれからの薬剤師と生き残るために必要なことになるのではないかと考えています。
まとめ
では、今回のまとめです。
・薬剤師は2030年ごろには供給過多になる可能性が高い
・AIが直接的に仕事を奪うことはないが、活用できないと生き残れなくなる
・薬剤師資格の相対的な市場価値の低下が起きる
今回は薬剤師の需給予測とAIの台頭についての内容でした。
AIの導入は社会をより良いものとする上で重要だとは思いますが、薬剤師にとってはタイミングが悪いものになるのかもしれません。ただ、うまく使うことで働き方改革に使える道具にもなるのではないかと考えています。
医療費が頭打ちしており、新たな収益を考える必要がある薬局業界においてAIが良い方向へと向かう手段となるといいですね。
今回で連載は終了となりますが、これからも自分のペースで記事を書いていきたいと思いますのでよろしくお願いします!