こんにちは! ネジです!
今回は医療を深く学ぶために必要な統計学についてのお話です。
テレビの健康番組などでは、「最近、○○ということが論文でも言われています」とか「○○という研究結果が出ています」などと情報の根拠が紹介されることがありますが、”論文や研究で言われていること=正しいこと”ではありません。
論文・研究と聞くとなんとなく”正しい情報”と感じてしまいますが、論文や研究が示している結果が”確からしい内容”かを判断するためには統計の知識が必要です。
私自身、統計学について詳しく知っていると言えるほどの知識はありませんが、統計の基本とインターネットなどを使って医療の情報を得るときの注意点についてまとめていきたいと思います。
Contents
そもそも統計学ってどんなもの?
統計学は採取したデータを役立つ形に変えるために必要な考え方です。
そのため、その考え方を理解しているか否かである事柄の解釈も変わってしまいます。
年収や貯蓄額などでも「平均値と中央値、最頻値の違い」などはそれぞれの性質を理解していないと誤った解釈をしてしまいますよね。
これは平均から大きく外れたデータがあるとそのデータに引っ張られてしまうことがあるためです。
統計学は医療や薬学以外にも上記のような経済学やそのほかの様々なデータを扱う学問で重要視されています。
統計はコーヒーの味見のようなもの
よく統計学を説明するのに使われる例えが「砂糖やミルクを溶かしたコーヒー」です。
砂糖を溶かしたコーヒーが自分の好みの味になっているかどうかを知るためには、コーヒーを飲み干す必要はなく、スプーン一杯分の味見をすれば十分ですよね?
医療における統計学は調べたい事柄から”スプーン一杯分の味見”に相当することを行うための考え方です。
例えば、「タバコが身体に対してどのような影響を与えるのか?」を調べるためには喫煙者の全員ではなく、喫煙者の中からサンプルとなる人を集め、非喫煙者と比べてどのような影響があるかを調べます。
喫煙者の一部にどのような影響があるかを調べることで、他の喫煙者でも同様の傾向があることが推測できるということです。
バイアスに注意!
統計学を用いる際には”バイアス”に注意が必要です。日本語では「傾き」という意味の言葉です。
統計学の分野では「〇〇バイアス」という形で使われ、代表的なものとして「選択バイアス」「情報バイアス」「交絡バイアス(交絡因子)」があります。
“バイアスがある”というのは本来そのデータから得られるはずの内容と違う解釈をしてしまう可能性があることを言います。
特に医療についてはバイアスが存在している可能性を考慮できるかが”確からしさ”を調べるために重要であるため、「高齢者の運動量と平均余命に関する調査」を行うという仮定で説明していきたいと思います。
選択バイアス
選択バイアスは対象者を決める際に生じるバイアス。
例えば、調査をしようと思った際に、町中のAクリニックを受診している患者で調査を行う場合と大学病院のB病院を受診している患者で調査を行う場合ではもともとの疾患や同じ疾患でも重症度が異なると考えられるため、患者特性が異なります。
また、同じ調査を市の広報で募集する場合なども健康意識の高い人が多く応募し、そうでない人の募集が少なくなる可能性があります。
このように対象者を集める際にも何となく集めてしまうとバイアスが生じている場合があり、選択バイアスを呼ばれます。
情報バイアス
情報バイアスは結果を得る際にその方法が正しくない、または中立でないために生じるバイアス。
調査を行う際に、高齢者に「普段どれくらい運動をしていますか?」と質問をしたとすると、運動量をしっかりと数値化して答えられない高齢者が多い可能性があります。
運動量について質問した際に、Aさんは散歩などの健康を意識して行った運動時間の他、畑仕事の時間も運動時間だと考えて答えましたが、Bさんは畑仕事の時間は除外して考えて答えたとなると、正確に運動量のデータを得ることができなくなります。
また、データを集める質問者が「ゲートボールなど身体を動かす趣味はありませんか?」などと質問をした場合とそうでない場合も運動量を多く見積もったり、過少評価してしまう可能性が隠れており、情報バイアスとなってしまいます。
交絡バイアス(交絡因子)
「交絡」とは調査した内容とは関係ない事柄が結果に影響を与えることを言い、そのような影響を与える事柄を”交絡因子”と呼びます。
高齢者の平均余命には他に影響する因子として食習慣や現在抱えている病気の有無、経済的な問題など様々な影響があると考えられます。
選択バイアスや情報バイアスがかからないようにデータを集めた結果、運動量が多いほど、平均余命が長いことが分かったとします。
しかし、運動量の多い人ほど健康を意識して腹八分を心掛け、運動量が少ない人たちは健康への関心が低く、食事を多く食べる傾向にあった場合、今回の調査で分かった「運動量が多い人ほど平均余命が長い」という結果は食事量にも左右されてしまっていた可能性が捨てられない状態となってしまいます。
このような場合に食事量が”交絡因子”となった交絡バイアスがあったと言えます。
医療と統計学
統計学は医療の分野では”疫学”という形で使われています。
疫学はある病気の原因や予防法を知るための学問です。元々は伝染病の発生原因を調べるための研究として誕生しましたが、現在ではその対象は多様化しています。
また、研究の方法によっても信頼度が異なりますのでその点についても説明したいと思います。
コレラの原因は?~世界で最初の疫学の話~
コレラはコレラ菌による感染症で下痢や嘔吐を主な症状とした脱水から死に至る危険性があります。
現在ではコレラ菌が経口感染(飲食物からの感染)することで発症することが知られていますが、コレラ菌が発見される以前は不衛生な環境で繰り返されるコレラに悩まされた時代がありました。
1884年にコレラの原因がコレラ菌が産生する毒素によって引き起こされることが解明されたのですが、その30年前の1854年にジョン・スノーという医師が疫学を用いることでコレラの蔓延を防ぐことに成功します。
その方法は患者の多い地域を訪問し、死者数などの情報からとある井戸が原因であると結論付け、実際にその井戸の使用を中止するというものでした。
この事実はコレラ菌やその感染経路についての情報がなくても、実際に出た結果から予防法を見つけ出したことから世界初の疫学ともいわれています。
このように原因が分からない状態でも、データを解析することで”確からしい情報”を得ることができます。
研究の方法による信頼度の違い~観察研究と介入研究~
コレラの原因を見つけた方法は”観察研究”と呼ばれる手法です。
観察研究は研究者は研究対象の事柄に対して自分の判断で何かを行うことはなく、データを集めることで何が起きるかを評価・観測します。
観察研究に対して、研究者が意図を持って何かを「する・しない」という判断をする研究を”介入研究”と呼びます。
上のコレラの話で言えば、原因と考えられる井戸の水を摂取させるグループと摂取しないグループを作ってそれぞれがどのような状態になるかを観測するという研究が介入研究です。
実際にはこのような方法は非人道的な方法となる可能性が高いため医療では用いられませんが、水を飲んだグループのほとんどの人がコレラになり、水を飲まなかったグループの人がコレラにならないという結果が得られれば、より確実に井戸の水が病気の原因だと言えるはずです。
そのため、観察研究よりも介入研究の方が信頼度(エビデンスレベル)が高いと言われています。
観察研究の信頼度の違い~コホート研究と症例対照研究~
観察研究はさらに”コホート研究(追跡研究)”と”症例対照研究(ケースコントロール研究)”に分けられます。
例えば、喫煙と肺がんの関係を調べるとすると、コホート研究は肺がんではない人の中から喫煙者と非喫煙者のグループに分けて肺がんになる割合を比べ、症例対照研究では肺がんになった人とそうでない人を集め、それぞれの喫煙経験の有無を調べます。
イメージだけでは想像しにくいかもしれませんが、コホート研究はアウトカム※(肺がん)の発生していない段階からある要因(喫煙)に曝露したグループとそうでないグループを一定期間追跡し、発生率を比較しています。(アウトカム:結果の意味。今回は「肺がんになる」という結果)
対して、症例対照研究(ケースコントロール研究)は肺がんの患者(ケース)と健常者(コントロール※)の要因(喫煙)の有無を調べます。(コントロール:研究では「比較するためのグループ」の意味。)
同じようなことをしているように見えるかもしれませんが、信頼度は症例対照研究よりもコホート研究の方が高いと言われています。
これはコホート研究が介入研究のように原因と考えられるものの有無から結果を見ているのに対して症例対照研究が結果から要因を推察しているためです。簡単に言えば、症例対照研究は「結果論でしょ?」という状態にもなりかねない部分があるためです。(症例対照研究が悪い研究というわけではありません。)
エビデンスレベル
以上の内容からエビデンスレベル(根拠の強さ=信頼度の高さ)は以下の図のようになります。
メタアナリシスとシステマティックレビューは複数の研究結果を統合し分析する手法で、同じような研究内容をまとめることから一番信頼度が高い根拠とされています。
ランダム化比較試験は介入研究の中で介入するかしないかを無作為に決めることでバイアスを避け、客観的に評価をする研究であり、単一の研究としては信頼度の高い研究手法となります。
医療における情報の捉え方 ~批判的吟味~
記事の最初で「○○という論文や研究があります」という根拠が必ずしも正しくないと言ったのは、上記のように研究にもピンからキリまであることや研究の中でバイアスがどれだけ排除されているかをしっかりと考慮しなければならないためです。
医療では情報が信頼できるかどうかをしっかりと考えるために「批判的吟味」という言葉があります。文字通り、研究や論文が研究や著者が”語りたい結果”に誘導されるような内容でないかを”批判するように吟味をするべきだ”という考え方です。
うまく言いくるめられないように注意しましょうということですね。
まとめ
では、今回のまとめです。
・統計学は医療を深く知るために切り離せない内容
・バイアスの有無や研究手法で信頼度は変わる
・批判的吟味は忘れずに
今回は医療の情報を調べるための統計学のお話でしたが、インターネット上の情報についても同様のことが言えると思います。
インターネットは様々な情報を調べることができますが、ある事柄に対して賛否が分かれていることも多いかと思います。”確からしい情報”を知るためにはバイアスの有無を考え、批判的吟味をしていきたいですね。
また、今回は紹介しきれていない内容も多いのですが、その一つとして「出版バイアス」と言うものがあります。研究者にとって都合の悪い情報や期待外れの結果は世の中に出てこないというバイアスです。
情報を探すときは慎重に探したいですね。
では、次回もよろしくお願いします!