こんにちは! ネジです!
連載第2回の今回は「なぜ薬は効果を出すの?」がテーマの記事です。
「第1回で話してた受容体があるからじゃないの?」と考えた方もいるかもしれませんが、今回の話はもう少し細かく、「薬が受容体にくっつく理由」の話です。
薬学的に言うと「有機化学」や「物理化学」、「創薬化学」に近いお話です。
前回の話に出てきたアドレナリンやβ2刺激薬などの具体例を用いて説明していきたいと思います。
Contents
アドレナリンの化学構造
まず、アドレナリンは下の図のような化学構造をしています。
アドレナリンは身体の中で作られる物質であり、アドレナリンがくっつく受容体としてα受容体やβ受容体があることは前回お話しした通りです。
赤枠で囲った部分を”カテコール環”、青枠で囲った部分を”アミン”と呼び、アドレナリンはこの構造からカテコールアミンというものに分類されます。
しかし、このカテコールアミンは身体の中ですぐに分解されてしまうため、効果は持続しません。
第1回で身体の中にはスイッチを”OFF”にする物質がないというお話をしましたが、アドレナリンなどの生体内物質が分解されやすいことから必要性がなかったためだと考えられますね。
β2受容体刺激薬の構造は?
ちなみに前回登場したβ2受容体刺激薬(サルブタモール)は次の図のような構造をしています。
赤枠の中と青枠の中の構造がアドレナリンに似ているのがわかるかと思います。
これは人間が身体の中に元から存在した物質から、望ましい効果を持った物質を作るために構造を変えた結果であり、以下のような理由から構造を変更しています。
・吸収されやすくする
・吸収された後、分解されにくくする
・β2受容体への選択性を上げている
アドレナリンは薬としても存在しますが、錠剤などの形で内服した場合には吸収される前に分解されてしまうため、錠剤は存在しません。局所的に効果を期待して点鼻などで使用する方法はありますが、現在では主に注射剤として直接身体に入れて全身的な効果を出す方法で使用されています。
サルブタモールは分解されにくい構造としたことで、錠剤(ベネトリン®)を内服することでも吸収され、ある程度長い時間の効果が期待できます。また、β2受容体への選択性を獲得しているため、α受容体には作用せず、β1受容体への作用もとても弱いものとなっています。これにより、本来期待している肺への効果を高め、副作用を減らすことにも繋がっています。
β受容体遮断薬の構造
次にβ受容体遮断薬の構造を下に示します。
遮断薬は受容体に”フタ”をする薬でしたね。
構造を見てみると、赤枠と青枠の部分はアドレナリンと同じような構造をしていますが、緑枠の部分が違います。
左下の緑枠の部分にヒドロキシ基(-OH)がないことで反応性が変わったり、中央の緑枠部分がメチレンオキシ基(-OCH2-)になることで構造が大きくなり、うまく受容体の中に入れなくなっています。
しかし、全体的にはアドレナリンに似ているため、プロプラノロールを受容体が取り込もうとした結果、フタのように引っ掛かりアドレナリンの邪魔をします。
わずかな構造の違いでも薬としては大きく違う!
ここまでのまとめですが、第1回でも使った受容体の概念図も入れると上の図のようになります。
元々の物質であるアドレナリンはβ1受容体にもβ2受容体にもくっつきますが、サルブタモールは赤枠と青枠の構造を変えることでβ2受容体によりくっつきやすい形となりました。(β1受容体にはくっつきにくくなっている)
さらにプロプラノロールは赤枠と青枠がアドレナリンに似たまま、緑枠の部分の違いを作ることでアドレナリンがくっつけないようにフタとしての役割を果たしています。
このように見た目上はわずかな違いでも薬の効果としては大きな違いとなることを理解して頂けたかと思います。
わずかな差で違いが出る理由
構造上のわずかな違いが効果に差を生む理由としては以下のような点が挙げられます。
- 安定性と反応性
- 水溶性と脂溶性
- 構造の大きさや立体的な違い
簡単にまとめるとこのような感じですが、専門的で難しい話なので元々の構造に様々な置換基(「ヒドロキシ基:-OH」や「メチル基:-CH3」など)がくっつくことで薬の効果が強くなったり、弱くなったり、違う作用が生まれたりするものだと思ってください。
また、構造が大きくなることで薬の効いている時間が変わったり、抗菌薬ではより多くの菌に効くようになるなどの違いも出てきます。
立体的な違いというのは少し説明が大変なので胃酸を抑える薬を例に説明したいと思います。
同じ構造でも効果が違う薬?
上の2つの構造はPPIと呼ばれる胃酸を抑える薬のもので、オメプラゾールよりもエソメプラゾールの方が効果は良いとされています。
パッと見た感じは全体的に同じ構造ですが、赤丸の部分が黒塗りと点線という違いがあります。
これは記載方法の違いではなく、黒塗りは手前側に、点線は奥側に向かっていることを現していて、この構造では手前側に来るものを”R体”、奥側に向かっているものを”S体”と呼びます。
そもそもですが、薬の構造の多くは赤枠で囲った部分にある”鏡像異性体“というものを持ちます。(鏡像異性体がない薬もあります)
鏡像異性体というのは字の通り、「鏡に映したような関係にある少しだけ性質の違う物質」のことです。よく例えに挙げられるのは「右手と左手」の関係です。
右手と左手は鏡のような関係であり、完全に重なることはありません。そして、右手用・左手用のハサミなどがあるように同じように見えて微妙な違いがあります。
薬において”R体とS体”は”右手と左手”のようなものであり、オメプラゾールはこのR体とS体の両方が存在しているのですが、そのうちのS体の方が効果が良く、他の点でも優れているために「S体だけのオメプラゾール」→「S-オメプラゾール」→「エソメプラゾール」としてオメプラゾールとは別に販売されています。
これが立体的な違いによる効果の違いの一例です。この他、睡眠薬やアレルギーの薬などでも同じように鏡像異性体の片方だけを薬としているものがあります。
まとめ
では、今回のまとめです。
・どのような効果を期待するかで構造を変えて薬は作られた
・薬は構造のわずかな違いで性質が大きく変わる
・同じ構造でも立体的な違いで効果は違う
今回は薬剤師でも苦手とする人の多い薬の構造のお話でした。構造式にアレルギーがあるという方もいらっしゃるのではないかと思いますが、ここまで読んで頂きありがとうございます!(笑)
次回もよろしくお願いします!