こんにちは! ネジです!
今回は連載初回ということで「薬はどのように効果を出すのか?」をテーマにした記事です。
薬学的に言うと「薬理学」という分野のお話です。
身体の仕組みを少し理解してもらう必要があるため、自律神経と薬の働きを中心に話を進めていきたいと思います。
Contents
身体の中はどのようになっている?
人間は無意識のうちに呼吸、食べ物の消化や排泄、体温調節を行いながら生きています。その基本的な生命活動を調節しているのが自律神経です。
自律神経には3つの特徴があります。
1. 自律性支配(無意識に調節している)
2. 二重支配(交感神経と副交感神経の両方から影響を受ける)
3. 拮抗支配(交感神経と副交感神経はアクセルとブレーキの関係がある)
意識をすれば呼吸は調節できるかと思いますが、「呼吸をしよう」と思いながら生きている人はいないはずです。消化や排泄、体温調節も同様かと思います。
それが自律性支配です。名前も”自律”神経なので当たり前と言えば当たり前ですね。
交感神経と副交感神経があること、アクセルとブレーキのような関係があることもご存じの方も多いかと思いますが、今回は次の表のような働き方をしていることを知って頂きたいと思います。
- NO:一酸化窒素 一酸化窒素は血管を拡張させる作用がある
- 「平滑筋」は臓器などを作る筋肉で自分の意志では動かせない筋肉
- 「括約筋」は環状の筋肉で”弁”のような役割をする筋肉
- 胃壁細胞ではM1受容体が間接的に作用している
- 「粘稠性唾液」はベトベトの、「漿液性唾液」はサラサラの唾液の意味
- 上記以外にも自律神経の影響を受ける臓器(効果器)はある
中にはきれいな二重支配になっていないように感じられる部分もありますが、交感神経と副交感神経がそれぞれの臓器に対して概ね相反する働きをしているのが分かって頂けると思います。
ここで注目してほしいのが受容体という概念です。
受容体ってなに?
受容体とは身体の中の物質を受けとめて様々な効果を出すためのスイッチのようなものです。スイッチと言っても家庭にある照明のスイッチのようにONとOFFがあるものとは少し違います。
薬学として学ぶときには次のようなイメージを用いて学びます。
- α:アルファ受容体 β:ベータ受容体 M:ムスカリン受容体
- それぞれ少しずつ違いがあるため、「1」「2」「3」などの番号で区別される
この受容体に身体の中の物質やその代わりとなる薬がくっつくことで先ほどの表に記載したような変化が身体に起こります。
そして、大事なこととして基本的に人の身体の中の物質としては、照明で言うONしか存在しないということです。
「ONしか存在しなくて大丈夫?」と思うかもしれませんが、ONになったあと一定の時間でスイッチを押す物質がなくなってしまうので自動的にOFFになるので心配ありません。
スイッチを押すのはどんな物質?
概念的な話なので少し理解がしにくいとかと思いますので、ここからは例を用いて説明をしていきたいと思います。
まず、身体の中の物質でα受容体とβ受容体にくっつく主な物質はアドレナリンです。有名な物質ですね。
- アドレナリンはα1、α2、β1、β2の受容体にくっつくことで作用を出す
- アドレナリンは薬としても使われるが、元々は身体の中の物質である
それに対して身体の中の物質でM受容体にくっつくのはアセチルコリンというものです。
身体の各部分で上記のような働きを必要時にすることで人は身体の状態を保っています。
例えば、運動時はアドレナリンを出すことで気管支を拡張して酸素を取り込みやすくし、心臓の働きを強めて全身に酸素を届けます。そうすることで一時的に運動に耐えられる状態を作り、身体への負担を減らします。
しかし、その状態が続いてしまうとエネルギーを消費してしまうため、安静時には心臓に負担をかけないように心臓の働きを抑え、消化管の運動を高めることでエネルギーを確保するように体を変化させます。
そのため、交感神経は「fight or flight(闘争か逃走か)の神経」、副交感神経は「rest and repast(休養と栄養)の神経」とも呼ばれます。
つまり、身体はアドレナリンとアセチルコリンを作るかどうかを考えることで状況に合わせた変化を促しています。
薬は受容体に対してどのように働く?
スイッチである受容体とスイッチを押すための物資については理解して頂けたかと思います。
では、ここから本題である薬はどのようなものかというお話をしたいと思います。
例えば、喘息の発作が起きているときは気管支という空気の通り道が狭くなっている状態です。
そのときの治療としてはβ2刺激薬という薬を使い、気管支の筋肉を緩めることで拡張し、呼吸を楽にさせます。(”刺激”というのは”くっつく”ということ)
このときにアドレナリンのようにβ1受容体にもβ2受容体にも働いてしまう薬だと、呼吸が楽になるのと同時に心臓が頑張り始めて動悸がしたり、血管が広がることで血圧が下がり、立ちくらみのような症状が出てしまうかもしれません。そんな薬は嫌ですよね。
そのため、人間はβ2受容体だけに多くくっついてくれる薬を作りました。これを”選択的β2刺激薬”と呼びます。
実際には”選択的”といってもわずかにβ1受容体にもくっついてしまうため、吸入薬にして気管支に直接届けることで他の部分には届きにくくするという工夫もされています。
そうすることで動機や立ちくらみのような症状を起こすことなく、喘息の発作から解放してくれる薬となりました。
遮断薬:受容体に”フタ”をする薬
また、受容体にフタをしてしまう薬も存在し、遮断薬と呼ばれます。
例えば、普段から動悸がひどい人のβ受容体に身体の中のアドレナリンがくっついてしまったら余計に心拍数が増えてしまい、さらにひどい動機になってしまいます。
そのため、身体の中のアドレナリンを防ぐことで心臓の負担を軽減しようと考えたわけです。
遮断薬により、アドレナリンがくっつけなくなり、心臓の頑張りすぎが抑えられ、結果として動悸が改善します。
しかし、喘息持ちの方の場合、気管支のβ2受容体にもフタをしてしまうことで発作が起きやすい状態となります。薬の副作用的な側面です。そのため、刺激薬と同じように遮断薬にも選択性を持った薬剤も存在します。
実は身体の中にはスイッチがいっぱい!
薬は身体の中のスイッチを刺激したり、フタをして刺激できなくすることで患者の症状を改善します。
今回は薬の働き方の説明がテーマですので全ては説明できませんが、下の表に示すように身体の中には沢山の受容体(=スイッチ)があります。そのスイッチに対して、刺激や遮断をすることで薬は様々な効果を現します。
- ヒスタミン受容体
- ドパミン受容体
- GABA受容体
- アンギオテンシン受容体
- セロトニン受容体 などなど
専門用語では刺激薬を”アゴニスト(agonist)”、遮断薬を”アンタゴニスト(antagonist)”と呼び、特に遮断薬は”抗○○薬(○○には受容体の名前が入る)”や””○○ブロッカー”などと呼ばれます。
有名なのはアレルギーや痒みを抑える「抗ヒスタミン薬」と胃酸の分泌を抑える「H2ブロッカー」かと思います。
両方ともヒスタミンという物質が受容体にくっつかないようにフタをする薬ですが、フタをするのがH1受容体かH2受容体かの違いで作用が異なっています。
このあたりの話も将来的には記事にできたらと考えています。
受容体を使わないで効果を出す薬もいっぱい!
また、受容体以外のものに作用する薬も多くあります。
ホルモンを補充する薬、酵素に対して働く薬、特定の部分に働く薬などその働き方は様々で、例を挙げればキリがないぐらいあるのでこちらについてはいつか各論として記事にするときにお話できればと思います。
今回のまとめ
では、今回のまとめです。
・薬は身体の中の受容体という仕組みを使って働くものがある
・刺激薬と遮断薬により、身体を理想の状態に近づける
・ただ闇雲にスイッチを押したり、フタをするのも危険
・受容体を使わない薬もたくさんある
読んで頂き、ありがとうございました!
今回は薬理学の考え方である「薬はどのようにして効果を出すのか?」について書きました。
本連載は続けて読んで頂くことで薬への理解を深めてもらえるコンテンツにしたいと考えていますので次回以降もよろしくお願いします!