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第3回 ジェネリックって安全なの?(医薬品の開発)

こんにちは! ネジです!

連載第3回の今回は「ジェネリックって安全なの?」がテーマの記事です。

薬学的な話で言うと「医薬品の開発」についての話です。

普段の業務の中でもジェネリックに対する不安を持つ患者さんが一定数いることは実感しています。今回は薬局での短い会話では伝えきれないジェネリック医薬品についてお話していきたいと思います。

Contents

そもそもジェネリック医薬品ってなに?

ジェネリック医薬品(後発医薬品)について整理していきたいと思います。

まず、”ジェネリック医薬品”と”後発医薬品”は呼び方が違うだけで同じ意味の言葉です。

“後発医薬品”は”後”に”発売”された医薬品のことで、これに対するのは”先発医薬品”です。先発医薬品については後述します。

“ジェネリック医薬品”の”ジェネリック”は英語の”generic=一般的な”という意味の単語が由来です。薬の成分の名前(=成分名)を薬の”一般名”と呼ぶために”一般名の医薬品=ジェネリック医薬品”と呼ばれています。

現在、ジェネリック医薬品は基本的に”〇〇錠△mg「□□」“というような名称で販売されています。この“○○”にあたる部分が成分名(一般名)“△”は薬の量“□□”は製造しているメーカーの名前が入ります。

一方、先発医薬品は”●●錠▲mg“というような形でメーカーの名前が入らず、“●●”は成分名とは異なる”商品名”が入ります。

これは先発医薬品とジェネリック医薬品の基本的な名称ルールですが、「メーカー名の入る先発医薬品」や「商品名があるジェネリック医薬品」(古い薬に多い)もあります。

また、日本では医薬品の値段は厚生労働省が全国一律となるように”薬価”として決めていますが、ジェネリック医薬品は後に発売された医薬品であるため、薬の値段である”薬価”が先発医薬品の50%~70%程度になるようにルールで決められています。

 

なぜジェネリック医薬品は安いのか?

医薬品の価格を取り決めている薬価が、ジェネリック医薬品では先発医薬品よりも安く決められることは上述しましたが、その値段で製薬企業が販売できる理由が気になりますよね。

これにはしっかりとした理由があり、決して「ジェネリック医薬品は先発医薬品に比べて粗悪品だから」という理由ではありません。

この理由については医薬品がどのようにして作られているかを理解してもらう必要があるので医薬品の開発について説明させていただきます。

医薬品ができるまでのプロセスについて

上の図は医薬品が開発されるまでの大まかな流れです。各プロセスでは以下のようなことが行われています。

「基礎研究」:薬となる可能性のある候補となる化合物を見つける段階

「非臨床試験」:動物を用いて有効性や安全性等を調べる段階

「臨床試験」:人での有効性や安全性について調べる段階

「承認申請・製造販売」:国から薬としての販売が認められ、製造が許可された医薬品が販売される段階

「製造販売後調査」:臨床試験で確認することができなかった副作用などがないかを調べる段階

「基礎研究」で行われている内容としては一昔前は「第2回 なぜ薬は効果を出すの?」でお話ししたような身体の中の物質に似た構造から作っていくことが多かったのですが、それも頭打ちになってしまい、今はコンピューターを用いて薬になりそうな構造を探し、そこから実際にどうなのかを調べていくことが多いと言われています。

「基礎研究」で薬として効果が出そうな化合物を見つけ、その化合物について「非臨床試験」で実際に効果があるかどうかやどのような副作用が出るか、薬としての使用量はどれくらいが妥当かを調べます。そこをクリアすると実際に人に対して使用する「臨床試験」が始まります。

臨床試験はどのように行われる?

臨床試験はいわゆる「治験」です。

第Ⅰ相試験は安全性を調べる試験のため、患者ではなく、健康な成人男性が対象になります。(抗がん剤では患者に投与されます)健康な人が対象のため薬の効果がどれくらいあるかは調べられませんので、どれくらいの量で副作用が出てくるかなどを調べるのが目的です。

第Ⅱ相試験で初めて患者に使用され、実際にどれぐらいの量や投与方法で効果が出るかが調べられます。

第Ⅲ相試験ではここまでに調べた用量や投与方法で多くの患者に投与され、その結果が既存の薬と比べて遜色がないことやプラセボ(実際には効果のない偽の薬)と比べて確実に効果があることを調べます。

臨床試験全体を通して薬剤が投与される人の数は数千~1万人程度です。

国の承認を受けてようやく販売へ

臨床試験までの結果が良好であれば、その薬を承認してもらうために国(厚生労働省)へ申請を行い、医薬品医療機器総合機構(PMDA)の審査を受けます。

この審査で問題ないと判断されると晴れて厚生労働省から販売許可が下ります。

その後は実際に新薬として販売され、多くの患者さんに使用されるようになりますが、臨床試験で投与された人数よりも遥かに多い患者さんが使用することで「未知の副作用が起きないか」などを調べます。多くありませんが、実際に販売するようになってから重い副作用が見つかることもあります。

新薬の開発には時間もお金もかかる

説明が長くなってしまいましたが新薬の開発には上記のような複雑なプロセスをクリアする必要があり、基礎研究の時点で10000以上の医薬品となる候補の化合物が考えられますが、実際に新薬として発売される薬はその中で1つ程度の割合であると言われています。

そのため、「○○に効く薬を作ろう!」と考え始めてから約10年~17年という長い期間がかかり、その間に200億~300億円の開発費用がかかります。

ジェネリック医薬品が安い理由

やっと本題に戻ってきましたが、ジェネリック医薬品が安い理由です。

医薬品が多額の費用と長い期間を使って作られることは理解していただけだかと思いますが、そんな医薬品の特許は20年~25年です。しかも製薬企業は他社に権利を奪われないように「基礎研究」などの早い段階で薬の特許を申請しているため、実際に販売してからは長くても10年程度しか特許期間はありません。

そしてこの特許期間が切れた医薬品と同じ成分の薬がジェネリック医薬品として他社から販売されます。

ジェネリック医薬品として販売する製薬企業は、「生物学的同等性試験」という先発医薬品とジェネリック医薬品が身体の中に同じように吸収されて排泄されるかといった試験を行い、問題ないと国から認められれば販売ができます。

そのために製造までのプロセスを大幅に短縮し、製造にかかるコストも縮小させられるため安い価格でも販売できるのです。(開発費用は1億円程度、期間は3~4年

ジェネリック医薬品=粗悪品 ではない

先発医薬品の開発プロセスとジェネリック医薬品が安い理由については理解していただけだかと思います。

ただし、全てが同じものではありません。

上の図で説明すると効果を出す部分に必須であるカプセルの中身である薬の成分は同じですが、カプセルの部分はそれぞれの製薬企業で違った添加剤を用いて作られています。

そのため、先発医薬品とジェネリック医薬品が「全て同じです」とは言えませんが、それでも生物学的同等性試験をクリアしているため、同じ効果があると言えるのです

オーソライズド・ジェネリックとは?

実は薬の添加剤まで同じジェネリック医薬品も存在していて、オーソライズド・ジェネリック(Authorized Generic=AG)と呼ばれます。日本語にすると「許諾を受けたジェネリック」となります。

つまり、先発医薬品のメーカーが「ジェネリック医薬品を作っていいよ」と許可を出すことで特許が切れる前から販売できるようになったジェネリック医薬品です

「なぜ?」と思うかもしれませんが、先発医薬品の特許が切れると他社からジェネリック医薬品が出てくるため、先発医薬品を製造しているメーカーの売り上げが下がってしまいます。そのため、他のメーカーが参入できない特許が有効なうちに子会社などにAGを作らせることで最初にジェネリック医薬品の中でのシェアを獲得することが目的です。

AGがあるのはまだ一部の医薬品だけですが、これから増えていくのではないかと感じています。

まとめ

今回のまとめです。

まとめ

・ジェネリック医薬品は開発費が少ないから安い
・ジェネリック医薬品=粗悪品 ではない
・AGは先発品と添加剤まで同じ

また、余談にはなりますが、先発品でも”●●錠”と”●●OD錠”の2種類が発売されている薬があります。「OD錠」というのは”口の中で溶ける錠剤”というもので先発医薬品メーカー側の特許切れ対策ですが、この場合にOD錠はジェネリック医薬品と同様に添加剤が異なります。

今回はあまり普段の業務では深く説明できていないジェネリック医薬品についてのお話でした。

最近は”ジェネリック医薬品”と似た響きの”ジェネリック家電”なんて言葉もありますが、少しニュアンスが異なることを今回の記事で理解して頂けると幸いです。

次回もよろしくお願いします!

ABOUT ME
ネジ
6年制薬学部を卒業し、現在は地方の薬局で管理薬剤師をしています。 薬や薬局についての情報の他、株式投資や読んだ本の紹介などしていきたいなと考えています。
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